水野FUKUOKA法律事務所

安易な接見禁止を防ぐ 最決令和7年8月14日令和7年(し)第672号

判旨

本件被疑事実の要旨は、「被疑者は、正当な理由がないのに、令和7年5月9日午後7時28分頃から同日午後7時33分頃までの間、ひそかに、愛媛県西予市内のアパートに居住する女性に対し、同アパートの浴室窓から携帯電話機を浴室内に向けて差し入れ、同人の性的な部位等を撮影しようとしたが、同人に気付かれたためその目的を遂げなかった」というものである。
被疑者は、令和7年8月1日に勾留され、原々審は、同日、検察官の請求により、被疑者と弁護人又は弁護人となろうとする者等以外の者との接見等を禁止する旨の裁判をした。これに対し、弁護人が本件準抗告を申し立てた。

原決定は、本件被疑事実の性質、内容、被疑者の供述状況及び供述内容からすれば、被疑者が、罪体や重要な情状事実について、関係者と通謀するなどして罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由があり、これを防止するためには、刑訴法39条1項に規定する者以外の者との接見等を禁止する必要があると認められるから、被疑者の母を含めて接見等を禁止した原々裁判の判断は正当であるとして、本件準抗告を棄却した。

しかしながら、本件は、事案の性質、内容をみる限り、被疑者が被疑事実を否認しているとしても、勾留に加えて接見等を禁止すべき程度の罪証隠滅のおそれがあるとはうかがわれない事案であるから、原審は、原々裁判が不合理でないかどうかを審査するに当たり、被疑者が接見等により実効的な罪証隠滅に及ぶ現実的なおそれがあることを基礎付ける具体的事情が一件記録上認められるかどうかを調査し、原々裁判を是認する場合には、そのような事情があることを指摘する必要があったというべきである。
そうすると、そのような事情があることを何ら指摘することなく原々裁判を是認した原決定には、刑訴法81条、426条の解釈適用を誤った違法があり、これが決定に影響を及ぼし、原決定を取り消さなければ著しく正義に反すると認められる。

解説

刑訴法89条は、勾留されている被疑者について、逃亡や罪証隠滅をすると疑うに足りる相当な理由がある場合には、弁護人又は弁護人となろうとする者以外の者と被疑者との接見や物の授受を禁止することができると定めている。これを一般に接見等禁止決定あるいは単に接見禁止とか、略して接禁などと呼んでいる(以下、本稿では「接見禁止」ということにする)。

同上の文言上は、「逃亡し又は罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由」となっており、勾留の要件である刑訴法60条と同様の書きぶりであるものの、当然ながら、勾留のみによっては逃亡や罪証隠滅を防止し得ず、勾留に加えて接見禁止をしなければならないだけの理由が求められているものと解されており、勾留よりも厳格な要件の下で初めて認められるものと解される。

詳細は、当事務所の解説記事をご覧いただきたい。

しかしながら、接見禁止については、検察官は安易に接見禁止を請求し、裁判官も極めて安直にこれを認める傾向にある。さながら自動販売機の如くである。例えば、共犯者のいる事件だと、暴力団やテロ集団などの犯罪組織によるものでなくとも、被疑者自身は犯罪の成立を争っていなくとも、高頻度で接見禁止が付されるし、否認事件だと、薬物の自己使用など、共犯者のいない単純な類型であっても、やはり高頻度で接見禁止が付される。

裁判官は接見禁止について安易に考えているようであるが、やられた方はたまったものではない。被疑者は、弁護人以外との面会や手紙のやり取りができなることで相当な苦痛を伴うし、しばしばそのことを利用した捜査官が被疑者に対して自白を迫るという場面も珍しくない。弁護人も、事件に直接関係ない近況報告や差入れ物品の依頼なども被疑者から聴き取りせざるを得なくなり、その分負担は増大する。

接見禁止については、これまで、本件のような準抗告ではなく、一部解除請求といって、特定の人物などについて、接見禁止を部分的に解除することを裁判所に求めるということがむしろ一般的であった。確かに、一部解除の場合、検察官の意見を踏まえた上で比較的柔軟な決定がされる場合もあるため、そういう意味では使い勝手がよいのであるが、そもそも接見禁止の法的根拠がない場合には、やはり原則通り準抗告にて争うことが筋である。実際上も、裁判官は、とりあえず全面的に接見禁止にしておいて、弁護人から個別に一部解除の申立てがあれば、その時に改めて判断すればよいとタカをくくっているフシがあり、争わない弁護人の姿勢も、裁判官の怠慢を助長している可能性がある。

本決定は、そのような安易な接見禁止に警鐘を鳴らすものと捉えられる。決定文を見ると、いわゆる「のぞき」の事案で被疑者が犯行を否認していることを踏まえつつも、「事案の性質、内容をみる限り、被疑者が被疑事実を否認しているとしても、勾留に加えて接見等を禁止すべき程度の罪証隠滅のおそれがあるとはうかがわれない事案」であるとした上で、「被疑者が接見等により実効的な罪証隠滅に及ぶ現実的なおそれがあることを基礎付ける具体的事情が一件記録上認められるかどうかを調査し、原々裁判を是認する場合には、そのような事情があることを指摘する必要があった」としたからである。筆者の経験上、接見禁止に対する準抗告審が、「接見等により実効的な罪証隠滅に及ぶ現実的なおそれがあることを基礎付ける具体的事情」なるものを具体的に説示してくれた事案というものはこれまでになく、そうなると今までの裁判は全てアウトだったのではないかという気すらするところである。今後はこの点に対する議論が深化し、安易な接見禁止を裁判所自らが謙抑することに期待したい。

実務上の工夫

ところで、決定文をみると、「被疑者の母を含めて接見等を禁止した原々裁判の判断」とある。このことから見ると、おそらく弁護人は、接見禁止に対する準抗告を行うにあたり、主位的には全面的な接見禁止の取消しを求め、予備的に、被疑者の母との接見禁止について部分的に取消すように求めたのではないかと推測される。

このようなやり方は、実務書などでも紹介されており、筆者も多用している。ビギナーズ68頁では、「予備的に配偶者・両親等の近親者に対する部分についての接見等禁止決定を取り消す旨の決定を求める」と記載されているが、筆者の場合、被疑者が希望すれば、友人や職場の同僚、支援者など幅広く記載するようにしている。以下に申立ての趣旨の記載例を示しておこう。

予備的請求

1 上記被疑者に対して令和*年*月*日に福岡地方裁判所裁判官がなした接見等(書類その他の物の授受を含む。以下同じ)禁止決定(令和*年(る)*号)のうち、別紙関係人目録記載の各関係人との接見等を禁止する部分を取消す

2 上記1の部分について検察官の接見等禁止請求を却下する

との決定を求める

実際に、このような申立てが認められて、近親者について一部接見禁止が取消された事例もあり、結果的には一部解除と同様の効果をもたらしている。筆者としては、どうしても早期に一部解除を求める必要がある事情でない限り、まずはこのような形で準抗告を行い、棄却された場合に一部解除を検討するというやり方が好ましいと考える。

裁判例の紹介

以下に、接見禁止に対する準抗告が一部認容された事例(筆者が弁護人を務めたもの)を2例紹介する。

福岡地決平成30年11月10日平成30年(む)50264号

同乗者の酒気帯び運転の身代わりとして虚偽の申告を行ったという犯人隠避被疑事件について、

「一件記録から認められる本件事案の性質・内容,被疑者や被隠避者の供述内容等に照らせば,被疑者が被隠避者と口裏を合わせるなどして,前記道路交通法違反被疑事件に係る事実を含む罪体や犯行に至る経緯等の重要な情状事実につき罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由があり,かつ,被疑者を勾留することのみによってこれを防止することは困難であるから,被疑者を勾留した上で,更に接見等を禁止する必要があると認められる。」としつつも、
「現段階での捜査の進捗状況等を踏まえると,接見等禁止の対象となる人物を限定することが難しいのはやむを得ないところ,本件事案との関わりや親族との連絡等の必要性に照らすと,少なくとも別紙記載の者との間でまで
接見等を禁止する必要性はないものと認められる(なお,更に他の者との間で接見等が必要であれば,氏名,生年月日,住居等を特定した上で,その必要性を疎明して,別途接見等禁止の一部解除を申請することにより対応すべきである。)」とし、被疑者の長兄に関してのみ接見禁止を取消し、次兄、三兄については棄却した。

犯人隠避のようなそれ自体が罪証隠滅の事案について、親族との接見禁止を違法とした点は評価できるものの、長兄については違法で次兄らについて維持されるのはなぜか、次兄らについてはなぜ別途一部解除の請求をしなければならないのかという点については、理論的根拠が不明であり疑問の残る判断である。

福岡地決令和7年8月6日令和7年(む)1476号

大麻の単純所持で、第三者が被疑者の持ち物に大麻を混入させた疑いがあると弁解して否認していた事案である。弁護人の準抗告を受けた裁判所は、「本件事案の内容・性質、被疑者の弁解内容等に照らせば、被疑者が、上記自動車の運転席付近に置かれた財布内にチャック付きポリ袋入りの上記大麻が存在するに至った経緯や、自身と違法薬物との関係性等、罪体ないし重要な情状に関する事実について、関係者に働き掛けるなどして罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由があり、被疑者の勾留に加えて、被疑者と刑訴法39条1項に規定する者以外の者(ただし被疑者の父母等を除く。)との間の接見等を禁止しなければ、このような罪証隠滅を防止できないと認められる。」としつつも、「本件が組織的な犯行であるとまではうかがわれないことや、被疑者に前科がないこと等の身上関係も考慮すると、被疑者の両親である別紙記載の者については、被疑者との接見等を通じて罪証隠滅に及ぶ具体的な危険があるとは認められないから、本件準抗告はその限度で理由がある。」として、両親との接見禁止を認めた部分については取り消した。なお少年事件の場合、原則的に両親など保護者については、はじめから接見禁止を付さないことが多いが、これは過去に親との接見禁止を付された少年が自殺を図るという事例があり、裁判官が反省したためだとされる(ただし出典不明)。

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