水野FUKUOKA法律事務所

医療事件についてご相談をお考えの方へ

ここでは、医療事件に関して、一般的な手続の流れや、よくある疑問などを掲載しています。

患者側

お医者さんは病気になった時の頼もしい存在ですが,お医者さんも人間ですからミスをすることはありますし,患者さんへの説明が不十分であったことが原因で,納得のいかない結果になってしまうこともあります。そうした場合に,法律上,医療機関の責任を追及できるかどうかは難しい問題です。

当事務所では,医学部卒業の知識とネットワークを生かし,医療ミスが疑われる事例について丁寧な調査を行い,責任追及が可能であるか否かを検討します。責任追及が可能であると判断された場合には,裁判外,裁判上の交渉を行って参ります。また,病院以外でも,介護施設等での事故についてもご相談をおけいたします。

医療機関側

山崎豊子の「白い巨塔」が出版されてから久しい年月が経ちますが,昨今ますます,インフォームドコンセントの重要性が増しており,医学的に妥当な医療を提供するだけでは患者さんとのトラブルを十分に回避できないこともしばしばです。また,医学の進歩により治療の選択肢が増加した結果,患者さんにそれぞれのメリット・デメリット等に関する十分な説明を行った上で,患者さんに主体的に治療方針を決めてもらう,というやり方を行わないと,後になってから「こんなはずではなかった!」という不満に結びつきがちです。さらに,昨今ではいわゆるモンスターペイシェントも問題になっています。そうしたトラブルに関する医療機関からのご相談も受け付けております。
※利益相反等により依頼をお受けできない場合もありますので,あらかじめご了承ください。

全般

手続の流れ
  • Q.先日、父が入院先の病院で亡くなりましたが、病院からは納得のいく説明が得られず、医療事故なのではないかと疑っています。弁護士に相談したいのですが、どういった手続になるのか教えて下さい。
  • A.通常の事案であれば、①調査 ②示談交渉 ③訴訟の3段階で進めていきます。
まずは調査から

医療事故と思われる事案が発生した場合、まずは、医療機関に対して法的な責任追及が可能であるかどうかを検討する必要があります。もっとも、医療という専門性の高い分野であるため、通常、ぱっと見ただけでは責任追及が可能であるかどうかを判断することは容易ではありません。また、実際に責任追及を行うためには証拠が必要です。

そこで、まずは、問題となっている医療行為について、診療録を取り寄せるなどした上で、民事上の責任追及が可能であるかどうかを調査・検討するステップが必要となります。この過程で、必要に応じて、医療の専門家に意見をきくなどする場合もあります。調査手続については、こちらをご覧下さい。

調査の結果、病院の実施した医療に問題がないと判断された場合には、その旨ご報告し、以後の手続については受任を控えることもあります。もっとも、提供された医療行為自体が医学的に妥当であったとしても、説明義務違反などの法的責任を追及することが可能である場合もあります。

責任追及が可能であると判断された場合

調査の結果、責任追及が可能であると判断された場合には、まずは相手の病院と、裁判外の交渉を行っていきます。ほとんどの病院は損害保険に加入しており、また顧問弁護士を置いていたり、医師会から弁護士を紹介してもらったりするため、通常は代理人同士での交渉となります。

裁判外で話し合いがまとまらない場合

交渉を行ったものの、病院が責任を否定する場合や、責任については否定しないものの、損害額について折り合いがつかない場合などは、訴訟を提起し、裁判による解決を目指していくことが一般的です。

調査手続
  • Q.先日、父が入院先の病院で亡くなりましたが、病院からは納得のいく説明が得られず、医療事故なのではないかと疑っています。まずは調査をお願いしたいと思いますが、どのような手順になるか教えてください。
  • A.診療録を入手し、必要に応じて医師の意見をききながら、最終的な結論をご報告さしあげます。
一番の証拠は診療録

医療行為を行った際には、その経過や内容等を診療録に残しておかなければならないとされています。また、診療録は、医療を巡るトラブルが現実化する前に、日常業務の一環として作成されているため、会計の帳簿などと同様、類型的に信用性の高い証拠であると考えられています(現実には、必ずしもそうでない場面は多々ありますが)。医療事故の話し合いがまとまらずに裁判になった場合でも、やはり診療録の記載が重視されます。このため、医療事件の検討をするにあたっては、診療録を入手することが必要不可欠です。
診療録は、病院に対して開示を求めることにより、コピーを入手することが可能であるのが通常です。もっとも、正当な理由もないのに応じない場合や、改ざんが疑われる場合には、証拠の保全を行うために、裁判所の手続を利用することなども検討する必要があります。
診療録は、問題となっている医療行為を行っている医療機関だけでなく、その前後に診療を受けた医療機関のものも入手する必要がある場合があります。

医師の意見聴取

当事務所は医療事件を多数、取り扱っていますが、もちろん、診療録を見ただけで、民事上の責任が追及できるかどうか判断できるとは限りません。このような場合、問題となっている医療行為がどの診療科の分野に関するものであるかを踏まえた上で、適切に意見を述べられる医師に意見をきくことになります。
その場合、地元の医師に意見を求めた場合、問題となっている医療行為を行った医師と同じ大学であるとか、個人的な知り合いであると言った可能性が十分あり得るため、適切に意見を述べてもらうことが難しい場合もあります。このような場合に備えて、当事務所では、なるべく、問題となっている医療行為を行った医師とは別の地域・大学の医師に意見を求めるようにしています。
また、救急搬送された患者さんが死亡した場合など、なに科の医師に意見を求めるのが適切であるか、判断に迷う場合もあります。当事務所では、関東・関西地方の医師にもネットワークがあるため、意見を述べてもらうための適切な人選を行うことが、他の事務所に比べて可能であることが強みです。

最終的な結論の報告

調査の結果、問題となっている医療行為について、法律上問題となる点が明確に指摘でき、民事上の責任追求が可能であると判断された場合には、示談交渉を開始する方向で事件を次のステップに進めます。
もっとも、残念ながら、調査したものの、医療機関の提供した医療には、特段、問題となる点が見当たらず、責任追及は困難であると判断される場合も少なくありません。それでも、ゼロでなければ見通しが悪くても受任する、という考え方はあり得るところですが、当事務所の方針としては、見通しが悪い場合にはその旨率直にお伝えし、場合によっては、セカンドオピニオンとして別の弁護士の意見を聞くことなどもおすすめしています。

医療事件で問題となるポイント

説明義務違反
  • Q.私は、定年退職をきっかけに、たまたま受診した人間ドックで、前立腺癌の疑いがあると言われました。泌尿器科を紹介されたところ、主治医から「手術しかない」と言われたため、手術を受けることにしました。手術によって癌自体は切除できたのですが、尿漏れを起こすようになってしまい、趣味であるゴルフに行けなくなってしまいました。それだけでなく、日常生活にも支障を来しています。主治医は、「現代の医療では、尿漏れを完全に防ぐことはできない。手術にミスはない」と言っています。
    しかし、術前に、尿漏れが起こることについて、主治医からは何もきかされていませんでした。術前にサインした同意書には記載があったようなのですが、老眼だった私は字がよく読めず、また内容について口頭で補充されたこともありません。 また最近になって、知り合いが同じ前立腺癌にかかったことを知ったのですが、彼は放射線治療をすすめられ、今では元気に趣味である草野球に励んでいると聞きました。
    手術自体にミスがない以上、医師や医療機関の責任を追及することはできないのでしょうか。
  • A.説明義務違反が認められる可能性があります。
医師の説明義務

昨今、医療においては、インフォームドコンセントが重視されています。我が国の医療法でも、「医師、歯科医師、薬剤師、看護師その他の医療の担い手は、医療を提供するに当たり、適切な説明を行い、医療を受ける者の理解を得るよう努めなければならない。」(1条の4第2項)との規定があり、インフォームドコンセントについて努力義務が課せられています。このことから、一般的に、医師と患者との契約のうちには、医師が患者の自己決定を適切に支援するために、必要な説明を尽くすことが、医療を提供する者の義務として含まれているものと考えられています。もっとも、実際にどのような説明をどの程度行うべきであるか、という点については、事例ごとに判断していくことになります。

説明義務違反が問題となった最高裁判例

医師による説明義務違反が問題となったリーディングケースとして、最高裁平成13年11月27日判例時報1769号56頁があります。この事例は、以下のようなものです。
原告は、平成3年1月28日に、右乳房にしこりを発見して被告の開設する病院を受診し、諸検査を受けた上で、同年2月28日に胸筋温存乳房切除術を受けました。その間、原告は、被告に対して、乳房を残す形での治療法に強い関心を寄せていることがうかがわれる申出をしていたものの、被告は乳房温存療法について十分な説明を行わなかったと主張して、被告に対して損害賠償を求めました。もっとも、平成3年当時、我が国では乳房温存療法は標準的な治療法として確立されてはいませんでした。
最高裁は、「医師は、患者の疾患の治療のために手術を実施するに当たっては、診療契約に基づき、特別の事情のない限り、患者に対し、当該疾患の診断(病名と病状)、実施予定の手術の内容、手術に付随する危険性、他に選択可能な治療方法があれば、その内容と利害得失、予後などについて説明すべき義務があると解される。本件で問題となっている乳がん手術についてみれば、疾患が乳がんであること、その進行程度、乳がんの性質、実施予定の手術内容のほか、もし他に選択可能な治療方法があれば、その内容と利害得失、予後などが説明義務の対象となる。」との一般論を示した上で、平成3年当時、乳房温存療法が治療法として確立していなかったとしても、原告に対して乳房温存療法の適応があり、また原告が乳房温存療法に強い関心を示していることを被告が認識していたと言った事情があるのであれば、被告の知りうる範囲で乳房温存療法についても説明を行い、原告に治療法を選択する機会を与えるべき義務があったとしました。

相談事例の検討

前立腺癌は、癌の大きさや転移の有無に応じて、特に積極的な治療を行わずに経過を観察する監視療法、手術で前立腺などを取り除く手術療法、放射線治療やホルモン療法など複数の治療法があり、それぞれ一長一短あるものとされています。また、ひとくちに手術と言っても、伝統的なお腹を切って行う開腹手術以外に、腹腔鏡と呼ばれるカメラを用いて行う手術や、最近ではダヴィンチと呼ばれるロボットを使用して行う手術なども存在し、放射線治療も、照射方法などが多岐にわたっています。
そうである以上、主治医は、患者の検査結果に基づき、前立腺癌のステージ分類など現状について適確に説明を行った上で、複数の治療法が選択肢として考えられるのであれば、それぞれの長所、短所について詳しく説明し、治療法を選択する機会を患者に与えるべきであったと考えられます。このため、手術自体にミスがなかったとしても、説明義務違反を根拠に損害賠償を請求することができる可能性があります。
説明義務違反を立証するためには、問題となっている医療行為が行われた時点で、患者がどのような状況にあり、どのような治療法が選択肢として考慮し得たか、患者が治療法の選択にあたりどのような関心を抱いていたか、それに対して、どの程度の説明が実際に行われたか、といった点を丁寧に検討する必要があります。

損害額

説明義務違反のみが認められる場合、それによって生じた損害というのは、患者の自己決定権が適切に行使できなかったことを理由とする慰謝料ということになります。このため、例えば手術自体が失敗であった場合などと比較すると、一般的に、認められる金額は少額になることが多いといえます。もっとも、あくまで具体的な事案に応じて決まってくるため、一概にいくらになるという確立した基準はありません。

まとめ

近年、医療はますます進歩し、ひとつの疾患に対して複数の治療法が選択肢としてあり得るという状況は確実に増加しています。一方で、患者の価値観もまた多様化し、例えば癌についても、積極的に手術や抗がん剤などの治療を希望するという人もいれば、緩和ケアのみ行い、必要最小限の治療で自由な時間を過ごしたいと考える人もいます。このため、医師は、個々の患者の価値観を適切に把握するよう努めた上で、医学的な適応も踏まえながら、治療方針(治療しないことも含む)について患者が自己決定することを支援することがますます求められてきているものと考えられます。
とはいえ、実際には、このような説明が十分行われていなかったために、患者や家族に不満が残り、治療自体にミスがあるのではないかと疑われて弁護士に相談に行く、といったケースも増えています。医師と患者が適切にコミュニケーションを取ることは、トラブルを未然に防ぐことにつながると思われます。

コラム 白い巨塔と説明義務

山崎豊子さんの小説「白い巨塔」は、大学病院での権力闘争を描いた小説ですが、2003年に唐沢寿明さんが主演となりドラマ化されています。このドラマ版には、原作と異なっている点がいくつかあるのですが、その中のひとつに、主人公の財前教授が実施した手術に関する訴訟について、化学療法や放射線治療の選択肢について説明を行わず、「助かりたいなら手術をするしかない」などと述べて手術を強行したことが問題視されている、というエピソードがあります。原作では、術前に必要な検査を行わなかったことの責任が問われているのですが、現在ではそのような診療が行われることは考えにくいため、争点をより現代的にアレンジしたものと考えられます。
とはいえ、作品中の財前教授のように、手術自体に医学的な問題がないにも関わらず、説明義務違反を理由に損害賠償が認められることに対して違和感をもつ見解もまだまだ根強いものがあり、今後も説明義務違反を争点とする医療紛争は増加するものと考えられます

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